2013年6月19日水曜日

「弦外し」の日!

きょうは修理の取っかかり、「弦外し」の日です。
初夏の風心地よい日、見学に集まった方達の中に、このピアノが遊工房へ来る前の持ち主であった方のご子息ご夫妻がお見えになりました。旦那さまは趣味でピアノを弾かれるそうで、弾きたい気持ちが鍵盤の上にかざした右手でわかります。


さて、ピアノがお家にあった当時のお話など伺っているうちに、気がつけば見学の人たちも集まり、自然とワークショップに入って行きました。



今日は斎藤さんのお手伝いでやはりピアノの修復のお仕事をされているAさんも加わって、作業は行われました。
まずはピアノを壁際から部屋の真ん中へ移動。



現在作られているピアノよりもずっと軽そう。弦を張ってあるフレームが細いし、ハコの木材も乾いて古くなっているからでしょう。ギャラリーにレジデンスで滞在していたアーティストが展示にピアノを利用してできた傷跡も、このピアノの味わい深い姿の一部になっています。


前板を外し、アクション部分を外し、鍵盤も外すと、斎藤さんとAさんは弦を何回かに分けて少しずつ緩めて行きます。
そして全体を完全に緩め終えると、高音部のピアノ線だけの部分は何のためらいもなく弦をパチンパチンと切って取り、巻き弦になっている低音部の弦はピンから外し順番を間違えない様にワイヤーに通してまとめて行きます。
















さてそんな風にして出来上がりました、アクション部分や鍵盤、ピンや弦も無い、フレームとハコだけになったピアノ。こんな光景は普段はあまり、いやほとんど見られません!アップライトピアノをプリペアドする為にアクション部分を外して大々的に弦に物を挟むピアニストはおりますが。


こうしてフレームの曲線や駒、ブリッジの並んだ姿も美しいですね。

そしてこれからどうなるのかというと、まず外した低音部分の巻き弦をこのピアノに合うものにする為に低音弦を製作している工房へ特注します。ピアノ本体は、フレームの外からピンが打ち込まれる裏側の木がどういう状態なのか調べ、状態が悪くなっているだろうから木を新しいものに取り替えるとのこと。低音部分の弦の下の方の駒も割れているので修理が必要だそうです。


さて、弦を外す事自体は至って単純な作業で終わりましたが、そんな過程を見るのは初めてのこと。全ての弦が外され、シンプルな姿になったピアノを、斎藤さんとAさんでトラックに積み込んで、修復をする工房へ運びます。

感慨深げに見入っていた参加者の目をよそに、淡々と作業を進めて行く斎藤さんとAさん。まずはピアノを毛布で覆い、ベルトで固定。ウィ〜ん、と荷台のリフトが上がると、オーナーの村田さんがそれを切なそうに見つめている。長い間共に生活の場にあった愛着のあるものが、一旦手を離れるのです。



物にも歴史あり。手にして来た人たちの思い出が宿っている。でも、思い出だけではなくこれからも楽器として活躍する為に、色々な人と関わり合って行く為に、少しの間お家を離れ入院、手術を受けるのです。このピアノがどんな風に蘇るのか、しっかりと見届けて行きたいと思います。