ピアノの鍵盤下のにある枠板の裏に書かれた『皇紀〜」の記しを西暦に換算すると、このピアノのお誕生は12月18日。お誕生日には遅れますが12月21日、今度はピアノと遊工房に縁のある方々に祝って頂こうということで、2回目のお披露目会が行われました。
楽器は鳴らしてこそ楽器。興味のある方にどんどん弾いて頂こうと、自由で賑やかに行われました。
この日一番乗りでお越し頂いたのは、このピアノの前持ち主のご子息Aご夫妻。ご主人様は、ご趣味でピアノを弾かれます。いや〜、すごいですよ、なかなかの腕前。
開演前から、レパートリー曲を次々とお弾きになります。側で奥様が熱心に聴いておられます。弾く人がいて、聴く人がある。芳醇な時間がか、静かに過ぎて行きます。
そして開演、今日は参加の日、アライも短く即興演奏をご披露させて頂きました。
このピアノの修理に当った斎藤雅顕さんに、このピアノの生い立ちなどについてお話を伺いました。
お話によると、一昔前はピアノは古くなったら買い替えるものだと言われ、当然そうだと皆が思っていました。
でも本当は、楽器は修理すれば長い間演奏に耐えられるもの。今では修理して使う、という考え方にシフトしつつあるそうです。
現在、「ピアノ買い取ります」という業者が増えています。買い取ってどうしているんでしょうか?修理してヨーロッパへ輸出しているのだそうです。ウシではありませんが、中古ピアノが売られて行くのです。
ヨーロッパでは中古でピアノを買う事は珍しくありません。中古のピアノを集め職人さんが修理し売る、ということをごく普通に行っているそうです。小さな工房で作られたものが沢山あり、値段も高い。
日本の量産体制で作られたピアノは、品質が良く値段も安いので、よく売れるのだとか。ピアノも古いからと言ってすぐに買い替えるのでなく、修理して末永く使ってあげてください、というのが斎藤さんの結びの言葉でした。
お話が終わり、さあここからはご自由にと、ゆるゆると忘年会へ移行。グラスを片手にピアノの傍らで楽器についての会話が広がります。
アライが弾いている途中で「アぁ〜〜〜」と一緒に歌ってくれた赤ちゃんの、お兄ちゃまがイスに座りました。最初は照れて、一本指でぽんっ!ぽんっ!と遠慮がちにやっていますが、そのうち大胆になり、バンッ!と来ました。
楽器を目の前にして音が出したくてドキドキしていたのでしょう。ピアノを見ると弾きたくてたまらなかった「あのころ」を思い出します。
そうこうしているうちに、知らず知らずのうちにピアノが鳴り出します。ええ、やっぱり弾きたい人はいるもんです。80歳のピアノの音なら、聴いてみたくなります。ポロポロと鍵盤に触れる音が聞こえ、ジャズの断片が一瞬弾み、楽しく連弾する音も聞こえ、用意した数本のワインもどんどん減って行きます。
80年間、様々な持ち主さんの生活と共にあったピアノ。夕刻に歌う人の声に寄り添い、時には聖歌を奏で、またある時にはアーティストのオブジェとなり、様々な人生と歩んで来たピアノ。これからもきっと、今までと同じ様に時を刻んで行くのでしょう。何も特別な事ではないこの「今」の積み重ねが、大切な「その時」になって行くのだと、ピアノが語ってくれている様に思います。